X線CT装置には画質改善のためにボウタイフィルタが装着されており、ファンビーム方向のエネルギーと線量が変化します。本研究では、ファンビーム方向のエネルギーと線量を一度に測定できるエネルギー測定器を作製しました。
1. X線CT装置のエネルギー測定について
X線CT装置には画質改善のためにボウタイフィルタが装着されています。ボウタイフィルタは、被射体を透過して検出器に到達するX線の線質を揃え、カッピングアーチファクトを低減する目的でX線管の前面に装着されています。
ボウタイフィルタの形状は一般的に逆鞍型をしており、ファンビーム角度毎にX線エネルギーと線量が変化します。
これらの情報が必要になる場面は多々ありますが、私の研究領域においてはモンテカルロシミュレーションにてX線CT装置を精度よく模擬するために必要になります。
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さて、それでは、X線CT装置のファンビーム方向のエネルギー(実効エネルギー)と線量(照射線量)の情報を取得するにはどうすれば良いでしょうか?
一般的にはボウタイフィルタの形状や材質は社外秘となっているため、ファンビーム角度毎の実効エネルギーと照射線量の情報を知るには実測する必要がある。
従来、X線CT装置の実効エネルギー測定は、メンテナンスモードによってX線管球を固定した状態でのアルミニウム板を用いた半価層測定法によって行われてきました。
しかし、この手法での測定には以下のデメリットがあります。
- メンテナンスモードにするためにはメーカーさんの協力が必要であり容易に測定できない
- アルミニウム板を交換して何度もX線を照射する必要があるため測定に手間が掛かる
- ファンビームの中心の角度でしか測定できない
1回だけの測定なら良いのですが、様々なCT装置・管電圧・ボウタイフィルタ形状で実効エネルギーの測定をしようと思った際には、従来の半価層測定法では大変な手間と時間がかかります。

そこで、本研究では、半導体素子で構成されたエネルギー測定器を新たに考案し、CT装置でのエネルギーを簡便に測定できる手法を提案しました。
2. エネルギー測定器の作製
作製したエネルギー測定器から実効エネルギーを求める手順を以下の図に示します。
本エネルギー測定器は、2層のフォトダイオードで構成されています。各段のフォトダイオードにX線が照射されると、線量に比例した電圧信号が取得できます。この時、2層のフォトダイオードの間には薄い鉄板が入っており、鉄板によりX線が減弱されることで各段の出力電圧に差が生まれます。この差を利用して、入射X線のエネルギーを推定しています。
2層のフォトダイオードの出力電圧の比と実効エネルギーの関係を示すキャリブレーションカーブを予め作成しておくことで、未知のX線エネルギーを推定できるという仕組みです。
本エネルギー測定器では、1度のX線照射で実効エネルギーを即座に求める事が可能です。同様の手法で、照射線量も同時に測定できます。

次に、エネルギー測定器の特性評価として、方向依存性・X線強度に対する依存性・エネルギー校正曲線を求めました。
このエネルギー測定器を8個作り、CT装置のファンビーム方向に沿って円弧状に配置することで、1回のCT撮影でファンビーム方向の実効エネルギーと照射線量を測定することができます。
エネルギー測定器は鉛スリットで覆われているため、回転照射下で使用することができます。(メンテナンスモードが不要)

作製したエネルギー測定器を用いて、様々なCT装置で測定を行い、以下の論文で報告しました。
3. 公表した論文
エネルギー測定器の特性評価と、種々のCT装置でのデータ
Pin-photodiode array for the measurement of fan-beam energy and air kerma distributions of X-ray CT scanners
Tomonobu Haba, Shuji Koyama, Takahiko Aoyama, Yutaka Kinomura, Yoshihiro Ida, Masanao Kobayashi, Hiroshi Kameyama, Yoshinori Tsutsumi
PHYSICA MEDICA-EUROPEAN JOURNAL OF MEDICAL PHYSICS 32(7) 905-913 2016年7月
4. コメント
この研究は、私の博士課程でのテーマの一つでもあり、恩師である名古屋大学の小山修司先生と青山隆彦先生のご指導のおかげで、遂行することができました。
採択されるまでに別の雑誌に2回rejectされ辛い時期もありましたが、インパクトファクター付きの論文誌に初めて採択された、思い入れのあるテーマです。
この研究での査読プロセスや恩師のご指導を通して、一皮剥けることができたと実感しています。
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